1)NMU投与による下顎切歯歯牙硬組織形成異常には、エナメル質の色素消失、エナメル質および象牙質の形成不全などが見られた。retinol palmitate(RP)+NMU投与では歯牙硬組織形異常はより顕著であった。 2)RP+NMU投与ではNMU単独投与に比し、歯胚上皮へのヘルトヴィヒ上皮鞘の樹枝状増殖、歯髄内や周囲の結合組織内に遊走する歯原性上皮巣が多く、これら上皮巣に象牙牙細胞が誘導され、象牙質が形成されていた。 3)RP+NMU投与では歯原性上皮の腫瘍性増殖の多くみられた。 4)β-カロテン+NMU投与ではNMU単独投与に比し、切歯歯牙形成異常、歯原性上皮の異常増殖および上皮の角質変性は軽度であった。 5)NMU単投与ではエナメル器のエナメル芽細胞への分化障害、扁平上皮化生、エナメル器のヘルトヴィヒ上皮鞘化が見られ、それに伴いエナメル基質の形成不全および不規則象牙質形成を生じた。歯眼膜内に遊走した上皮巣は角化傾向が著明で、一部は嚢胞状、腫瘍性増殖を示した。上皮一間葉組織間の誘導は保たれ、間葉組織からの象牙芽細胞の誘導はみられたが、上皮一間葉組織の相互誘導は認められず、歯原性上皮のエナメル芽細胞への分化はなかった。RPまたはβ-カロテン投与では、NMUによる歯原性上皮の角質変性を非常に軽減し、エナメル芽細胞の分化障害を軽度に阻害した。特に、RP投与では遊走する歯原性上皮巣は扁平上皮化生は軽減し、角質変性による消失もなく、上皮一間葉相互作用が部分的に回復することが、歯原性腫瘍発生に関与することが示唆された。 6)その他の変化としてRP投与では、NMU単独投与でみられる前胃と歯肉の腫瘍性増殖は激減した。β-カロテン投与でもそれらの変化は軽減したが、肝に胆管の増生を伴う腺線維症様変化は増大傾向を示した。 7)今後、種々の組織における上皮-間葉組織の相互作用についてVAの影響をより明らかにし、そのメカニズムを追求する必要があると考える。
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