本年度は哺乳類頭部神経堤細胞の移動・分化に関与する遺伝子発現の解析に関して、以下のような研究を行った。 1.レチノイン酸(RA)投与マウス胎児におけるRAレセプタ-(RAR)遺伝子の発現 レチノイン酸(RA)は強い催奇形性物質として特に頭顔面領域の奇形を誘導し、その際の標的は頭部神経堤細胞であるといわれている。すでに、胎児顔面正常発生過程で、3種のRAR遺伝子のうちβとγがそれぞれ時期特異的・領域特異的に発現していることをin situハイブリダイゼ-ション法により組織学的に報告した。この結果をもとに、本年度は、顔面奇形を誘発するような用量のRAを母獣に投与したときの3種のRAR遺伝子の発現の変化を調べた。その結果、RAR β遺伝子の発現のみ変化がみられ、RA投与後3時間より12時間後、正常発生では発現がみられない上顎および下顎隆起でも強い発現が観察された。この異所性の発現がみられる領域には過剰の細胞死が認められ、特異的な顔面奇形との関連が示唆された(研究発表参照)。 2.マウス発生過程におけるグルココルチコイドレセプタ-(GR)遺伝子の発現 ステロイドホルモンの一種であるグルココルチコイドは、口蓋裂を高頻度に誘発する。そこで現在、このレセプタ-遺伝子の発現を、マウス正常発生ならびに口蓋裂発生過程で検索中である。 3.頭部神経堤細胞の移動経路の追跡 哺乳類頭部神経堤細胞の移動に関与する遺伝子発現を解析するための基礎として、移動前に特定領域の神経堤細胞を色素で標識し、その経路を追跡する系を、マウスおよびラット全胚培養系を用いて確立した(研究発表参照)。
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