本年度は哺乳類頭部神経堤細胞の移動・分化に関与する遺伝子発現の解析に関して、以下のような研究を行った。 1.頭部神経堤細胞の移動時期におけるPax-6遺伝子の発現 昨年報告したように、Pax-6遺伝子に突然変異を有するミュータントラット(rSey)では中脳由来神経堤細胞の前頭部隆起への移動に異常があることから、本年度は頭部神経堤細胞の移動時期におけるPax-6遺伝子の発現を詳細に検討するために、非ラジオアイソトープを用いた切片上およびwhole mountによるin situ hybridization法を確立した。その結果Pax-6遺伝子は神経堤細胞そのものでは発現していないことが解り、この遺伝子産物は中脳神経堤細胞の移動に関わる環境因子を制御する役割を果たしている可能性が示唆された。 2.マウス顔面間葉細胞のマイクロマスカルチャー下での軟骨形形成と、それに対するレチノイン酸の効果 昨年度までに報告したように、顔面発生過程においては軟骨形成領域と非形成領域との間で、異なるサブタイプのレチノイン酸受容体遺伝子の発現が領域特異的に認められる。頭部神経堤細胞に由来する未分化な顔面間葉細胞の軟骨細胞への分化に、レチノイン酸がレチノイン酸受容体を介して関与する可能性を検討するために、胎齢11日マウス胚顔面間葉細胞のマイクロマスカルチャーを行い、軟骨形成をin vitroで再現する系を確立し、解析を行った。その結果、軟骨形成量は顔面各隆起(外側鼻隆起、内側鼻隆起、上顎隆起、下顎隆起)で差があり、レチノイン酸は軟骨形成に抑制的に働くことが示された。また、レチノイン酸受容体の発現部域の特異性から、レチノイン酸が顔面における軟骨細胞への分化を制御する因子として働く可能性が示唆された。
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