Porphyromonas gingivalisのエレクトロポレーション法による形質転換に、P.gingivalis自体から抽出したプラスミドを用いることで初めて成功したことは前年の実績報告書で報告したとおりである。引き続き第2年目は、同菌の形質転換法を一般化する手段と条件につき検討を行った。 新たに判明したことは、同菌種には調べた限りにおいてどの菌株にも制限酵素が存在し(しかも多くの菌株は複数の種類の制限酵素を有している)、そのため他菌種からのプラスミドDNAによる形質転換が不可能だという事実である。形質転換能の差は菌株により異なり、また用いるDNAの由来(それを抽出するのに用いた菌株の違い)によって大幅に差異が見られた。一般的に、形質転換頻度とDNAの由来の関係は次のようであった。 同一菌株由来 > 同一菌種の異菌株由来 > 異菌種由来 なお、異菌種(大腸菌)由来の場合、形質転換頻度は実質的にゼロであった。ところで、用いた菌株の内でSU60株およびLS95株の二株だけは同一菌株由来と異菌株由来とでほぼ同頻度で形質転換体が得られた。このことから、両菌株は他菌株と異なり制限酵素を単一しか保有していないのではないかと推測された。 制限酵素を保有しない菌株は突然変異の誘発により得ることが可能ではあるが、複数の制限酵素を有する株からは得るのが極めて困難であることが分かっている。従って両株は制限酵素を保有しない変異体を得るのに恰好な材料と考えられ、現在、変異体作成に向けて努力を続けている。制限酵素非保有株が得られれば、大腸菌にてクローン化したP.gingivalisの遺伝子を形質転換で同菌に容易に伝達することが可能となり遺伝学的研究の可能性が格段に広がるものと期待される。
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