研究概要 |
大脳辺縁系の関与によって発現される情動が痛覚需要に著しい影響を与えることが知られている。例えば、痛覚閾値は闘争中には上昇し、反対に恐怖や不安時には低下している。そこでこのメカニズムを探る第一歩として、大脳皮質第一体性感覚領(SI)の口腔投射野において歯髄の電気刺激に応ずる細胞(歯髄駆動細胞)の興奮性に対する大脳辺縁系、特に扁桃体およびその周辺部の条件刺激の効果を調べた。 実験には笑気と酸素の混合ガスおよび1%ハロセンで麻酔、curareで不動化したネコを用いた。歯髄への試験刺激にはduration 0.5msecの矩形波を用い、条件刺激はduration 0.5msec,330Hz,300muAのパルスで100msecの間、連続的に行った。それらの刺激部位はPrussian blue法によってマーキングし、実験終了後組織学的に検索した。 扁桃体の条件刺激では短い潜時で応じるF-typeの歯髄駆動細胞やその自発放電に対する修飾作用を観察できなかった。しかし、扁桃体の腹側に位置する扁桃周囲皮質の条件刺激は、F-typeの歯髄駆動細胞やその自発放電に影響を及ぼさなかったが、20msec以上の長い潜時で応じるS-typeの細胞の約半数の応答(スパイク数)を約30-80%抑制した。また、F-typeに後期放電を伴うFa-typeの細胞に対しては、初期放電には影響を与えないが、後期放電を60-80%抑制した。S-typeの抑制効果は200-600msec持続し、opiate antagonistであるnaloxone(0.2mg/kg,i.p.)によって拮抗された。以上の結果は歯髄性痛覚受容に扁桃周囲皮質の活動がopiate receptorを介して何らかの影響を及ぼしていることを示唆している。
|