1.初年度:扁桃体が侵害受容を修飾するという想定を実証するため、侵害受容反射とみなされている開口反射(JOR)に対する扁桃体条件刺激の効果を調べた。扁桃体の中心核の条件刺激は歯髄の電気刺激によって誘発されるJORを抑制したが、他の核は影響を及ぼさなかった。また、歯髄刺激による誘発電位法や中枢刺激によるJOR誘発などを用いてこの抑制部位を調査したところ、三叉神経運動核レベルであることが判明した。 2.次年度:扁桃体刺激が中枢神経のどの部位に影響を与えるかを調べる第一歩として、歯髄の電気刺激によって興奮する脳部位をc-fosの発現を利用して調べた(PAP法)。歯髄刺激群はコントロール群(ネンブタール投与群および生食投与群)に比較して、延髄の三叉神経脊髄路核尾側亜核、中脳の結合腕傍核、視床の外側手綱核および視床下部の視索上核においてFos陽性細胞数が有意に上昇した。しかし、視床の後内側腹側核(VPM)や髄板内核群そして大脳皮質の体性感覚(SI&SII)および前帯状回にはまったく陽性細胞を認めることが出来なかった。 3.最終年度:侵害刺激とされる歯髄への電気刺激によって興奮する大脳皮質第一次体性感覚野(SI)の細胞(歯髄駆動細胞)に対する扁桃体およびその周辺部の条件刺激の効果を調べた。初年度の研究と同様に、扁桃体諸核の条件刺激によって歯髄駆動細胞の活性が修飾される現象を観察することは出来なかった。しかし、扁桃体の腹側に位置する扁桃周囲皮質の条件刺激が歯髄駆動細胞の長潜時の応答を特異的に抑制することが観察され、しかもこの抑制はnaloxoneによって拮抗された。これらの結果は、扁桃周囲皮質の活動がopiate receptorを介して侵害受容を抑制していること、および扁桃体中心核は三叉神経運動核のレベルで侵害反射を抑制していることを示唆している。 4.今後の計画:3.で観察された抑制効果がどのレベルで起こっているかを2.のc-fosの発現を利用して調査する。
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