臼歯部咬合面に用いる歯冠修復材はエナメル質と同等の摩耗特性を持っていることが望まれる。本研究はそのような条件を満足する歯冠修復材としてはどのような材料が適切かを明かにすることにある。そこでまず、実験的に口腔内で生じている咬合接触に起因する摩耗を再現するための検討をこれまで行ってきた。その結果、口腔内で生じている摩耗現象にかなり近い実験条件が得られた。しかし、口腔内で生じる摩耗は性別、部位、咬合誘導様式やブラキシズムの有無などによって大きな個人差があるため、歯冠修復材の摩耗特性を判定するには最終的に口腔内で摩耗を観察する必要があるものと考えられた。 コンポジットレジンは複数の材料を組み合わせた複合材料であるためエナメル質を摩耗させやすいことがこれまで問題となってきた。しかし操作性や審美性が良いため、その利点を生かすために多くの研究が進められている。今回の一連の実験では、フィラーの形状及び粒径と含有量が摩耗特性に大きな影響を持っていることが明かになっている。すなわち、粒径が大きいほど、また含有量が多いほど、それ自体は摩耗しにくいが、対合歯を摩耗させやすい。そこで、フィラーの材質、表面処理法や含有量を改善したコンポジットレジンが開発された。このコンポジットレジンは実験的には、対合歯の摩耗、それ自体の摩耗ともにこれまでのコンポジットレジンよりもかなり優れていることが認められた。そこで、平成4年度は患者にこの材料を装着し、定期的に印象採得を行い、表面粗さ・輪郭形状計測システムを用いて摩耗の評価を行うことになっていた。しかし、このシステムでは、実験的な試料の計測は簡単に行えるが、天然歯の摩耗の時間的な経過を調査するためには、時間経過を追っていくための、データの重ね合わせが行いにくく、現在その方法を検討中である。
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