研究概要 |
近年,歯科材料・歯科消毒薬などの歯科領域における生物学的安全性の重要性が指摘されているが、それらの生物学的安全性試験法は主に細胞の殺作用・増殖抑制作用など毒作用の結果のみを検出しているにすぎない。従って、歯科材料・歯科消毒薬などの細胞毒性発現機序の解明を主目的として腎由来の細胞(JTCー12、MDCK)を用いて検討したところ下記のような結果が得られた。 歯科消毒薬として繁用されている根管消毒薬の主成分であるフォルムアルデヒドは用量及び処理時間に依存してこれらの腎細胞に細胞質の萎縮に続いて球状化した細胞や細胞質の膨張した変性細胞が認められるなどの障害を誘発し、アルカリフォスファタ-ゼ活性を抑制したが、乳酸デヒドロゲナ-ゼ、γーグルタミルトランスペプチダ-ゼ活性は殆ど抑制されなかった。ス-パ-オキシドアニオンラジカル産生は増加されずむしろ減少傾向を示した。一方、過酸化脂質量はJTCー12細胞では若干増加傾向を示したがMDCK細胞では1mMフォルムアルデヒドまで顕著に増加し、3mMフォルムアルデヒドでは逆に減少した。JTCー12細胞では(Na^++K^+)ーATPase、(H^++K^+)ーATPase活性はほとんど抑制されなかった。ところが、MDCK細胞では(Na^++K^+)ーATPaseは用量依存的に抑制されたが、一方、(H^++K^+)ーATPase活性は1mMフォルムアルデヒドまで増強され、更に高濃度の3mMフォルムアルデヒドでは完全に抑制された。遊離細胞を用いた細胞内カルシウムイオン濃度はフォルムアルデヒドにより用量依存的に一過性に増加した。 以上の結果より、フォルムアルデヒドによる細胞障害の一次的な標的部位は形質膜であり、形質膜の障害が二次的に細胞内pHの低下などの細胞内変化をきたすことによって細胞死を惹起するものと思われる。
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