研究概要 |
歯科領域における歯科材料の生物学的安全性が指摘され、各種試験法がその生物学的安全性に適用されている。実験用動物代替の観点からこれらの試験法では培養細胞を用いる試験法に主眼が置かれているが、これらの試験法は主に細胞の殺作用、増殖抑制用のみを調べているにすぎないので、歯科材料・歯科消毒薬等の細胞毒性発現機序の解明を目的として腎由来の細胞(JTC-12,MDCK)と骨由来の細胞(MC3T3)を用いて歯科消毒薬の成分であるフォルムアルデヒド(FA)について生化学的に検討した。細胞障害の指標である乳酸脱水素酵素(LDH)はいずれの細胞でもFAにより用量(0.03-3mM)・処理時間(2-24時間)に依存して、培地中のLDH活性は高くなり、一方細胞中のLDH活性は低下した。同様に、中性赤試験法の結果もFAにより用量・処理時間依存的に抑制され、3mMではほぼ完全に抑制された。これらの試験法による細胞障害性は比較的短時間曝露で惹起されることが明らかとなった。スーパーオキシドアニオン産生は比較的短時間曝露で用量依存的に増加したが、24時間曝露ではむしろ抑制的に作用した。更に過酸化脂質量はJTC-12では殆ど変化は認められなかったが、MDCKではむしろ増加し、1mMで最大になった。 (Na^十十K^十)-ATPaseはJTC-12、MDCKいずれも抑制されたが、(H^十十K^十)-ATPaseはJTC-12では抑制的に、MDCKでは活性増加後、抑制された。また、歯科金属材料でも、ほぼ同様な結果が得られた。遊離細胞では細胞内カルシウムイオン濃度はFAにより、用量依存的に増加し、その作用は外液カルシウムを除去すると有意に抑制された。これらの結果から、同じ腎由来の細胞でも毒性発現の作用機序が異なり、毒物の評価には用いる細胞を選択する必要があると考えられる。特に、短時間曝露で障害を惹起する歯科材料の毒性発現の標的部位は細胞膜にあると考えられるので、細胞膜の動的変化などを指標とした試験法を開発する必要性があると考えられる。
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