研究概要 |
上顎全部床義歯の動揺現象と臼歯部人工歯の咬合接触を同時に測定することで,機能時の平衡側の挙動が明らかになり,その咬合接触の意義についても何等かの示唆が得られると考えた. そこで本研究では,下顎第2大臼歯咬合面に微小なスィッチを形成し,金属で製作した上顎第2大臼歯咬合面がこれに接触すると,咬合接触を検出できるように考案した.これにより,実験装置のコードは下顎義歯のみに付着し,上顎義歯には何等接続する必要がなく,生理的な状況下での上下人工歯間の咬合接触の観察が可能になった. 実験の結果,以下のようなことが明らかになった. 1.咀嚼初期には大きな咬合力を必要とするために上顎義歯作業側は前上方へ変位するが,平衡側は義歯の安定が良い場合にはわずかに前上方へ,安定が劣る場合には後下方へ変位する傾向にあった. 2.咀嚼初期には平衡側の咬合接触は作業側に先行して発現し,さらにその接触回数は作業側よりも多かった.これは,作業側には食塊が介在するので,上下人工歯間の咬合接触が妨げられるが,平衡側は,食塊が介在せず,上顎義歯平衡側の脱離,あるいは下顎義歯平衡側の浮上により咬合接触が容易に発生するためである. 3.咀嚼後期には平衡側と作業側の咬合接触状態に差がみられなくなり、規則的な接触を示した.これは,食塊が粉砕されて小さくなり,タッピング運動と近似した状態になるために,義歯床両側の変位量の差が減少すると共に,食塊による咬合接触の障害がなくなるためである. 4.作業側の咬合接触は,初期には咀嚼サイクルの開口相が始まってから発生するが,咀嚼の進行と共に開口相よりも先行するようになった. 一方,咬合接触の離開は,咀嚼の時期にかかわらず開口相の開始後かなり遅れて両側ともほぼ同時に発生した.
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