欠損歯列者の補綴処置においては、その第一要件として下顎位が正しく回復されることが必須である。なかでも咬頭嵌合位の的確な回復を如可に図るかは補綴学に課せられた大きな課題のひとつである。本年度の研究としては: 小・大臼歯部など後方の咬合支持が欠なわれた遊離端欠損では咬頭嵌合位において本来顆頭安定位とあるべき関節頭部(顆頭)が容易に変位しやすいことをすでに明かとした。こうした遊離端欠損を補綴する際、義歯の最大の要件は咬合接触の回復による下顎位の咬合支持の保持にあるが、臼歯の咬合接触が喪失した後、どれほどの期間にどの程度の咬合支持が失なわれ、ひいては下顎位が変化して行くかについてはこれまで不明であった。そこで臼歯部の「支持域」を含む大・小臼歯を止むなく抜歯する症例につき、即時義歯を適用し、適用の有無と下顎位の変化を経時的に測定すると共に、既に遊離端義歯により完全に咬合支持の回復されている患者2名において実験的に義歯の咬合を欠如させ、この時の下顎位の変位を経時的に測定した。その結果: (1)抜歯時に適用した即時義歯により下顎位の支持はほぼ術前同様に保持された。 (2)即時義歯の適用を中止すると下顎位は顎間距離の減少を来するように変化した。 (3)遊離端義歯装着患者において咬合支持構成部の咬合接触を実験的に経時的変化を与えると下顎位は大きく変化しやすくなり、その可変性は特に第2小臼歯の欠如前後、及び第1大臼歯の欠如前後で大きく変化する少なくとも2つのタイプがあることが明かとされた。
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