研究概要 |
癌細胞において、種々の抗癌剤に対して同時に耐性化する多剤耐性現象が認められる。Pー糖タンパク質がこの癌細胞の抗癌剤に対する耐性化の本体の一つとされている。Pー糖タンパク質は耐性細胞の細胞膜に存在し、投与された抗癌剤を細胞外へ能動輸送する排出ポンプとして働き、癌細胞耐性化に関与していると考えられている。Pー糖タンパク質は正常臓器にも発現し、特に副腎、腎臓に高い発現が認められることより、Pー糖タンパク質の精製、分離を試みた。材料は牛の副腎を用いた。方法は、細胞膜に存在しNaポンプの本体であるNa,KーATPaseの精製に準じ、MgーATPase活性を指標に行った。結果、現在までに十分な精製には至っていない。これは正常組織におけるPー糖タンパク質の発現量では、用いた方法により精製するには限界があること、またPー糖タンパク質の可溶化が十分に行い得ないことがあげられる。このことより、今後は発現量の多い培養細胞を用いることを検討している。膜画分よりのPー糖タンパク質の検出については、抗Pー糖タンパクモノクロナ-ル抗体を用いWestern blot analysisで、試料5mgでも可能となった。このことより、頭頚部癌の臨床サンプルを用いPー糖タンパク質発現の解析を試みた。牛副腎よりのサンプルをコントロ-ルとし、臨床サンプルの膜画分よりPー糖タンパク質の検出を行った。結果、種々の臨床サンプル、特に唾液腺由来の癌組織にPー糖タンパク質陽性と思われるバンドが検出された。しかしこのバンドは、Pー糖タンパク質が分子量170ー180kDaとされるコントロ-ルのバンドとは異なった部位に認められた。Pー糖タンパク質は発現する動物種によりやや異なるとも考えられるが、このことは不明である。今後はPー糖タンパク質検出の臨床応用も含め、その生化学的性質の詳細をさらに明かにしたい。
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