顎関節疾患のうち顎関節部を中心とする疼痛、顎運動異常および関節雑音を呈する顎関節症が高い発生頻度を示し、その中でも顎関節円板の転位を示す顎関節内障が顎関節症全体の半数以上を占めることが漸次明らかとなっている。転位した顎関節円板は、開口などの顎運動に際し、応力を受け、形態的および病理的変化をきたすことが知られている。しかし、転位した顎関節円板が顎運動に際し、いかなる負荷を受け、どのような応力分布を示すか全く明らかにされていない。そこで上下顎関節腔造影同時多層断層エックス線写真から再構成された転位顎関節円板三次元モデルを用い、開口時における顎関節円板への応力解析を非線形有限要素法プログラムを用いて行ない、これにより転位顎関節円板における応力分布、変形様相を明らかにすることを目的とした。 まず、復位を伴わない関節円板転位例における上下顎関節腔造影同時多層断層エックス線写真を用い、転位関節円板の輪郭をトレース入力し、転位顎関節円板三次元画像の再構成を行った。なおパーソナルコンピュータを使用した顎関節円板三次元画像の再編成に関する手法は、本研究者が昭和61・62年度科学研究費補助金(一般研究C、課題番号61570959)の助成を受け、すでに公表した方法を用いた。次いで、転位顎関節円板三次元画像を4タイプ、すなわち重畳、捻転、圧縮、複合に分類し、それらのうち最も単純なモデルとして圧縮タイプを選択し非線形静解析を行った。非線形有限要素法解析には、非線形有限要素法プログラム(横河技術情報、COSMOS/MCV1.52A)を本研究補助金で購入し使用した。なお本プログラムは教室所有のパーソナルコンピュータ上で駆動し、演算結果は数値データならびに画像データとして出力した。解析の結果、転位関節円板の応力分布は下顎頭を作用点とした場合、円板後方肥厚部を中心にほぼ同心円状に描出された。
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