ペプチドのN末端よりジペプチドを水解遊離するジペプチジルペプチダーゼ(DPP)のうち、口腔癌患者血清中では、DPP 活性が有意に低下し、逆にDPP 活性が有意に上昇することから、これらが口腔癌のマーカーエンザイムとなる可能性が示唆された。しかし、癌化による両酵素活性変化の正確な機構および癌化のいかなる段階より酵素活性が変化しはじめるのかは不明である。本研究では、口腔癌のモデルとしてハムスター頬嚢粘膜を化学発癌剤であるジメチルベンツアントラセン(DMBA)で癌化させ、発癌過程における両酵素の組織内発現および血清中酵素活性変化の関連性について検索した。その結果、DMBA塗布8〜10週後の乳頭腫形成期より、血清DPP 活性は徐々に低下し(P<0.05)、約12週後の上皮内癌あるいは初期浸潤癌形成期にはさらに低下した(P<0.001)。約16週後の高分化型扁平上皮癌形成期には、正常の1/2以下の酵素活性値となった(P<0.031)。それとは対称的に、血清DPP 活性は、発癌の初期段階で上昇傾向を示し、扁平上皮癌形成期には有意に上昇した(P<0.01)。血清のDPP 活性レベルは、腫瘍切除により上昇したが、再発や転移により再び低下し、腫瘍死が近づくにつれてさらに低下した。血清DPP 活性レベルは、それとは相反的に変動した。発癌過程で採取した組織での酵素発現を抗ラットDPP 血清を用いて免疫染色したが、正常組織との間に明らかな差をみいだすことができなかった。 以上の結果より、血清DPP および 活性は、担癌マーカーとして有用であり、特にDPP 活性は発癌の初期段階から変化することが示唆された。最近DPP が、Tリンパ球の表面マーカーであるCD26であり、Tリンパ球の増殖に密接に関連していることが報告されているので、担癌ハムスターのTリンパ球画分におけるDPP 活性を測定することにより、血清のDPP 活性低下の機序を検索中である。
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