舌・口底・下顎歯肉癌の術後の言語機能は、舌の器質的な欠損による形態や機能の障害、または術後の瘢痕収縮による残存舌の可動性の障害により左右されることが経験上でわかってきたが、客観的なデ-タにより評価された報告は少ない。当科では口腔癌の治療成績向上のため切除範囲の決定は、初診時の臨床病理学的所見を参考にしてきた。本研究ではこれらの症例に対する切除部位別の構音の評価、術後の舌の可動性を評価し口腔癌切除後の言語機能に関する検討を行った。 対象)舌、口底、下顎歯肉癌の切除後1年以上経過し言語所見を評価することのできた口腔扁平上皮癌52症例であった。原発巣の部位別内訳は舌癌26例、口底前方部を中心とする口底癌16例、正中または臼歯部の下顎歯肉癌10例であった。方法)1.構音機能検査として100音節発語明瞭度(以後発語明瞭度)を判定した。2.原発部位別の臨床病理学的悪性度と発語明瞭度との関連を求めた。3.超音波診断装置により術後の舌の可動性を検索するため/Ka/発音時の舌最大運動量、舌運動量左右差、舌運動時間を求め発語明瞭度との関連を求めた。 結果)1)発語明瞭度に関しては舌癌、口底癌の術後では、統計的有意に悪性度と負の相関を示したが、下顎歯肉癌の術後では、悪性度に関係なく発語明瞭度は高い値を示した。2)/Ka/発音時の舌最大運動量、舌運動量左右差は特に統計的な相関は認められなかったが、舌運動時間においては負の相関を示し舌運動時間が発語明瞭度の低下に関係していると思われた。以上の結果より舌、口底癌では、術前の臨床病理学的悪性度より術後の言語機能をある程度予測ができることが示唆され、また残存舌の可動性を評価するためには、/Ka/発音時の舌運動時間が有効であり、残存舌のすばやい動きを妨げない手術法の選択が必要であると考えられた。
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