研究概要 |
家兎VX2舌癌モデルを用いて,癌増殖や癌転移にともなうフィブロネクチン(FN)の動態を詳細に検討した。《結果》1.癌間質のFN反応は,癌増殖が活発になると減弱する傾向にあった。また,頸部リンパ節転移もFN反応が減弱する頃に認められた。2.癌間質の細胞性FN(cFN)反応(ED-Aの発現)は,癌増殖を抑制した抗癌剤投与群の方が,癌増殖が活発な抗癌剤非投与群より,陽性の割合が多かった。3.転移リンパ節におけるFN反応,cFN反応(ED-Aの発現)は,転移形成初期の癌組織においてのみ認められた。FN反応が認められるものは,すべてにおいてcFN反応(ED-Aの発現)も認められた。4.血中FN濃度は,癌増殖が活発であると上昇するが,癌増殖を抑制するとほぼ正常値まで回復していた。また,癌増殖時において上昇してくる血中FN濃度は,血漿中のFNのウェスタンブロット解析によりintact cFNが減少し,ED-A領域を含むFNフラグメントにも変化が認められないことから,intact血漿型FN(pFN)もしくは,ED-A領域を含まないFNフラグメントの上昇であると考えられた。5.癌間質のFN反応と血中FN濃度とに関連性は認められなかった。また,癌増殖時における癌間質のcFN反応(ED-Aの発現)と血中cFN濃度とにも関連性が認められないことより,癌間質のFN,特にcFNは,癌間質反応のものであると考えられた。以上の結果より,血中FN濃度には腫瘍マーカーとしての有用性はなく,その経時的測定により癌増殖の活動性を判断できる生物学的マーカーとなりうる可能性が示唆された。癌間質のFN,特にcFNは,癌実質に対する癌間質反応の一つであり,癌に対して抑制的に作用していると考えられた。したがって,癌間質のFN反応,特にcFN反応(ED-Aの発現)の観察は,治療方針や予後の評価に有用な一つの指標となりうることが示唆された。
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