1)ストレインゲ-ジ法による下顎限界運動時におけるヒト顎関節の歪分布。下顎運動に伴って現われる顎関節下顎窩の力学的反応の特性を解明する目的で、新鮮ヒト遺体を対象に下顎運動を人為的に行わせて、下顎窩上壁を構成する側頭骨鱗部大脳面部に生ずるひずみを三軸ストレインゲ-ジ法で測定した。その結果、全主ひずみ量は、関節結節上壁および下顎窩上壁では最大開口位で、また下顎窩上壁上壁外側では右方移動時で最大であった。一方、関節結節上壁および下顎窩上壁では咬頭嵌后位で、また下顎窩上壁外側では噛みしめ運動時で最小であった。主ひずみの性質では、前突位、前突位からの開口運動、後方開閉運動および咬頭嵌合位においては、下顎窩上壁の全ひずみ量に対する圧縮いずみ量の占める割合が著しく大きくなり、蝶番軸運動および噛みしめ運動においては、下顎窩上壁の全主ひずみ量に対する伸展ひずみ量の占める割合が著しく大きくなった。また、前突位、前突位からの開口運動、最大開口位および右方移動においては下顎窩上壁外側の伸展ひずみ量の占める割合が大きくなり、後方開閉運動においては圧縮ひずみ量の占める割合が著しく大きくなった。以上の結果から考察すると、開口運動の程度に応じて下顎窩上壁外側の骨は外側にたわみ、下顎窩上壁は下方に沈下するように変形することが示唆された。したがって関節円板のみならず顎関節を構成している骨にも同部に加わる力を緩衝する仂きのあることが明らかになった。2)有限要素法による顎関節の応力解析。咬含異常時を想定して、前歯咬頭干渉あるいは臼歯咬頭干渉となるように2次元数値解析モデルの拘束条件を変化させて数値解析を行った。その結果、正常噛みしめ時と比較して関節円板の相当応力は高値となり、かつ応力集中部位が円板後方肥厚部から後部結合織に変化することが示唆された。
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