1.本研究は、骨格性不正咬合患者において見られる大臼歯の過剰萌出が顔面骨格の成長にどのような影響を与えるのかという点について実験動物(カニクイザル)を用いて検討しようとするものである。それゆえに、大臼歯の過剰萌出を人為的に再現し、それに対する顔面骨格の発育を長期に亘って追跡する必要がある。現在、本実験は順調に進行中であるが、まだ研究成果は得られていない。しかし、本実験の計画を実行する前に予備的な研究がおこなわれ、その結果がまとまりつつあるので報告す。 2.人為的な大臼歯の過剰萌出を、サル上顎第一大臼歯に金属冠を装着することによって再現し、その後約1年間の顎顔面骨格の成長パタ-ンを頭部X線規格写真を用いて検討したところ次のようなことがわかった。 a.混合歯咬合期にある若い動物では大臼歯部の咬合挙上によって、下顎骨は次第に前方回転を伴う前方偏位を示し、咬合状態は反対咬合様の変化を示した。これは人間の場合の小児期に起る、反対咬合者の発育パタ-ンと類似しているものと考えられた。 b.一方、成猿(永久歯咬合)に対して同様の処置を行った結果では、若い猿に見られたような下顎の前方回転は見られず、咬合状態は開咬様の変化を示した。これは人間の矯正患者に見られる思春期以後の開咬の発現過程と類似しているものと考えられた。 c.これらのことから、後方大臼歯部の叢生とそれに伴う大臼歯の過剰萌出は、顎顔面骨格の発育に重大な影響を与えているものと推定された。 3.今後の研究の進行によって次のようなことを明らかにする計画である。 a.咬合挙上と下顎頭および下顎骨の発育との関係について組織学的検索し、どのようなメカニズムで下顎の発育が進行するのかを明らかにする。 b.咬合挙上が咀嚼筋の機能にどのように影響するのかについて検討する。 c.それらの結果を踏まえて、骨格性不正咬合の治療への臨床応用を検討する。
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