制癌性抗生物質ブレオマイシンはそのピリミジン部位で鉄錯体を形成し分子状酸素を活性化することにより、DNA中のデオキシリボ-ス部分を酸化的に開裂することが知られている。本研究ではブレオマイシンの錯体化学を解明し、すぐれた酸化触媒を設計するため、種々の人工ペプチドによる酸素活性化を検討した。我々はすでにモデル化合物PYMLー6でブレオマイシンと同等の酸素活性化を達成している。今年度はモデル化合物の軸配位子部分の構造と機能の関係について検討した。 ブレオマイシンは生体内に存在する加水分解酵素により不活化されるが、これは軸配位子部位のカルバモイル基が加水分解されるためと考えられている。そこで不活化ブレオマイシンに対応するdeamidoーPYMLー6を合成し、PYMLー6と比較した。その結果、カルボキシル基が軸配位すると酸素を活性化しなくなることが分かった。さらにPYMLー6をマウス肝臓抽出物で処理したところdeamidoーPYMLー6を与えた。これによりブレオマイシンの酵素による不活化の機構が証明された。 酵素によるカルバモイル基の加水分解をうけないよう、軸配位子をイミダゾ-ルで置き換えたPYMLー13を合成した。PYMLー13は鉄錯体としての挙動はブレオマイシンとは異なるものの、かなりの効率で酸素を活性化した。さらに実用的見地から構造を大胆に改変し、ヒスチジンを2分子含むモデルPYMLー14を合成した。
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