研究概要 |
架橋双環系分子は、その剛性構造と分子の対称要素特性から、有機分子の立体選択的合成にとって、格好の要件を備えている。すなわち、その厳しい配座拘束のため、環上置換反応の立体化学の予測が容易であり、さらにこの特性に基づいて、エナンチオトピックな関係にある原子あるいは原子団を容易に識別して不斉分子へと変換できることである。 我々は、特に含室素架橋双環系分子に着目し、その生物活性アルカロイド類の不斉合成への適用を検討し、音叉先端('fork head')位ケトンの古賀塩基を用いる不斉エノール化が高エナンチオ選択的に進行し、さらにそのエノールエーテル部の酸化開裂により、α,α'位に同等の置換基を備えたシス置換ピロリジン、ピペリジン体および3,5位シス置換ピペリジン体の不斉合成に成功した。これらピロリジンおよびピペリジンは、数種のアルカロイド類の極めて有効な不斉合成素子となり得るものと考え、検討した結果、アリ追尾フェロモンである(+)-monomorineI、矢毒がエルアルカロイドである(-)-indolizidine 223ABの不斉合成を行なうことができた。 また、9位に酸素官能基を有する3-azabicyclo体の不斉エノール化反応において、その置換様式によってエナンチオ選択性が大きく左右されることを見出し、シクロヘキサノン環に対し4位のアキシアル側に酸素官能基がある場合、著しくエナンチオ選択性が低下することを明らかにした。 一方、新たなσ対称型双環系ジオールを設計し、リパーゼによる官能基識別を経て、一方のピペリドン環の酸化的開裂を行ない、高度に官能基化されたα,α'位シス置換3ーピペリジノール誘導体の両対学体の効率的不斉合成を達成し、別途経路によるジヒドロピニジンの不斉合成に成功した。
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