研究概要 |
1.哺乳動物転移リボ核酸由来の蛍光ヌクレオシドを合成するための重要中間体であるβ,γー不飽和アミノ酸誘導体は,ビニルグリシン誘導体用いるHeck反応生成物の高速液体クロマトグラフィ-精製によって得られているものの,その効率は極めて悪かった.この問題は,Heck反応の条件検討などによっては解決し得ないことが分かった.そこで,本研究担当者らが開発した,アラニン誘導体を構成部分とするホスホニウム塩を用いるWittig反応の利用を再検討した結果,ホスホニウム塩を分子内塩とすることによって収率が向上すると共に,ピペロナ-ルとの反応はラセミ化を伴わず,かつ完全に立体選択的に進行することが判明した.したがって,今後の計画は,このWittig反応を軸として遂行することになろう. 2.標的ヌクレオシドの塩基部分の合成は,該当する合成中間体である不飽和アミノ酸誘導体をオスミウム酸酸化に引き続きシュウ酸ジクロリドによって環状炭酸ジエステルに導くことによって達成していた.1,2ージオ-ル類がシュウ酸ジクロリドによって炭酸エステルを与える例は報告されておらず,このような反応は,筆者らが用いた1,2ージオ-ルの構造の特異性によって起こる特殊なものと考えていた.この考えの妥当性を証明するために,最も簡単な構造のエチレンジオ-ルを含む種々の1,2ージオ-ルとシュウ酸ジクロリドとの反応を行ったところ,驚くべきことに,すべてのアルコ-ルから炭酸ジエステルが得られることが判明した.この反応の様相を十分に解明することは,本研究計画の範囲に収まるような狭いものではないと予測している.元来極めて専門色の強かった本研究計画の遂行がこのような基礎的な発見につながったということが本報告の最大のポイントである.
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