1986年、ニュ-ジ-ランド産海綿から新規多縮環系アザスピロジエン骨格を有するdiscorhabdin AーDが、また同じ時に日本産海綿からprianosin AーDが単離され、これらがdiscorhabdin類と同種のアルカロイドであることが明らかにされた。これら一連の化合物は何れも強い細胞毒性を示し、制癌剤探索リ-ド化合物として期待しうると共に、興味深い分子構造を有しているので合成化学者の標的として注目されている化合物群である。これまで競って合成研究されているが、誰も合成には成功していなかった。我々は、本年度本研究課題で世界で最初にdiscorhabdin Cの全合成に成功し、多くの注目を集めた。以下、この事を含め、平成3年度研究計画に従って1ー3)の研究実績の概要を記す。 1)Discorhabdin合成の問題点はi)酸化に弱いインド-ル環におけるアザスピロヘキサジエノン環の合成、ii)pyrrolophenenthroline環でのイミノキノンの合成、並びにiii)橋かけS原子の立体選択的な導入である。我々は1989年に超原子価ヨウ素化合物の特性を利用して含窒素スプロヘキサジエノンの収率の良い優れた新合成法を見い出しているので、まだ研究計画1)に基づきこの合成法の一般性を検討し、インドロキノンを含む種々のアザスピロジエノンの優れた合成法になることを明らかにした。 2)研究計画2)に基づき、インドロキノン側鎖を有するチラミン誘導体からアザスピロジエノン骨格を合成し、次にイミノキノン生成を検討したが全くdiscorhabdin Cは得られなかった。そこで先にイミノキノンを生成させた後アザスピロジエノン生成を行い、目的の抗腫瘍海洋天然物discorhabdin Cの全合成に成功した。 3)現在、研究計画3、4)に基づき、その他のdiscorhabdin類合成に必要な窒素の隣接炭素にS原子を不斉導入する新手法を検討中である。
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