研究概要 |
抗体による分子認識機構を解明するため,特定アミノ酸残基を選択的に安定同位体標式したFv(V_H,V_Lからなるヘテロダイマ-)を調製し,NMRによる解析を行ったところ,以下の知見が得られた。 1)スピンラベルハプテン(DNSーAmTEMPO)を用いた抗原認識部位の特定 ^1Hー ^<15>NHSQCによるスピンラベルの結合実験を行ったところ,H鎖CDR1(H1)およびCDR3(H3)由来のシグナルに顕著な線巾の増大が観測された。したがって,抗原認識では主としてH1およびH3を用いて行なわれていることが明らかになった。 2)主鎖アミドプロトンのHーD交換 抗原非存在下でHーD交換を行ったところ,pH5.0,30℃,10hrでラベルアミノ酸由来の51個のシグナルのうち,31個のシグナルが消失した。これらのシグナルのほとんどは,CDRル-プのいずれかに存在するアミノ酸に帰属されるものであった。一方,抗原存在下で同様の実験を行なうと,H1,H3ル-プの根元のアミノ酸残基のHーD変換速度が著しく減少した。この結果は抗原結合により抗原認識部位の水素結合のネットワ-クに変化が起きたことを示している。 3)主鎖アミド窒素の緩和時間(T_1,T_2)測定 主鎖アミド窒素へのT_2測定の結果から,抗原非存在下ではH3ル-プに構造の多型がみられ,抗原が結合することで構造の多型が収まることが示された。 以上の結果より,抗原認識にあたり,抗原認識部位は動的反構造変化を起していることが明らかになった。
|