研究概要 |
免疫グロブリンには免疫経過とともに,その超可変ループを中心とした体細胞突然変異によるアミノ酸の置換等により,免疫原に対して親和性を増大させることが知られている.この現象はaffinity maturationと総称される.本年度の研究では,affinity maturationによる親和性向上の機構を高次構造の観点から議論するため,抗NP抗体群から1次応答における抗体(N1G9)と2次応答における抗体(c6,3B62)を対象として取り上げ,NMRを用いて解析した.はじめに,Trp残基およびTyr残基の主鎖アミド窒素を^<15>N標識したFabフラグメントを用いて,抗原結合部位の同定を行った.主鎖アミド基に由来するNMRシグナルの部位特異的帰属は^<13>C-^<15>N2重標識法により行った.常磁性プローブの10A近傍に存在するNMRシグナルは線幅が増大し,強度が著しく減少する.そこで,スピンラベル添加実験より抗原結合部位の同定を行った.その結果,N1G9およびC6の超可変ループには数多くのアミノ酸変異がおきているにもかかわらず,いずれの抗体においても抗原結合部位は,L1,L3,H1,H3ループで囲まれた領域であることが判明した. N1G9およびC6の抗原結合部位のミクロ環境を調べるために,抗原-抗体分子間NOEの測定を行った.その結果,NPに対して高い親和性をしめすC6の抗原認識には,L鎖由来のTyr残基が寄与することが明らかになった.親和性の向上に伴うL鎖由来のTyr残基の寄与の出現は,他のH鎖33位のTrp→Leu置換のない2次応答抗体(3B62)においても認められた.また,滴定型熱測定実験の結果より,N1G9に比べC6は抗原とより強い疎水性相互作用を行っていることが判明した.
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