研究概要 |
種々の両親媒性物質の添加により,ヒト赤血球の形態は円盤状のディスコサイト型からコンペイトー状のエキノサイト型あるいはカップ状のスタマトサイト型に変化することが知られている。昨年度の研究実積報告書で,スタマトサイト型変形が引き起こされると,細胞外液中に溶解させておいた物質が細胞内へ取り込まれることを報告した。この取り込み実験は,マーカーとしてテトラエチルアンモニウムイオンを用い,反応後,赤血球を溶血させ,細胞外へ流出したマーカー量をイオン選択性電極を用い定量することにより行なった。イオン選択性電極は溶液の濁り・色にはまったく影響を受ず,目的とする物質の定量を抽出・分離操作なしに行なうことができる簡便な測定方法である。そこで,テトラエチルアンモニウムイオン以外に有用な生理活性物質の導入実験にも,電極法を用いて定量できるようにすることも重要と考え,生理活性物質に応答する電極の開発研究を進めていった。ここでは字数の関係上,アデノシン-5'-三リン酸(ATP)の定量に電極法を応用した例についてのみ記述する。ATPはコリン選択性電極と酵素コリンキナーゼを用いて高感度で定量可能であった。コリンはATPと定量的に反応し、コリン電極に対して不感受性のコリンホスフェートに変化するため,酵素反応で消費したコリン濃度を電極法で定量することは,そのままATP濃度を定量することに対応した。本法はATPを定量する新しい方法となり,例えば赤血球内に含まれるATP含量(1.2mM)も定量することができた。 さらに本研究を通じて,両親媒性構造をもつ生理活性ペプチドにより引き起こされる赤血球の形態変化の機構,電極法による細胞膜に形成されたイオンチャンネルサイズの定量法,またATP以外の物質の電極法による定量の確立等の幅広い成果も得られた。これらについては11.研究発表の項で示した論文を参照してほしい。
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