研究概要 |
1.配向角度の一般的関係式.低スピンFe(III)へム錯体における低対称場主軸、gおよび超微細(hf)テンソル主軸のヘム座標系に対する配向角度を方向余弦またはオイラ-角により表現し、C_1対称性錯体に対する一般的角度関係式を導出した.「gテンソル主軸は低対称場の固有関数から定まる」こと、および「この関係が低スピンFe(III)へム錯体(t_2^5 ^2T_2)に限らず、他の電子配置から生ずる ^2T_1、 ^2T_2、 ^4T_1、 ^4T_2などの多重項状態に対しても成立する」ことが明らかにされた.他方、「hfテンソル主軸は低対称場およびスピン軌道相互作用を考慮したゼロ磁場における固有関数から定まる」ことが示された. 2.C_2対称性錯体に対する角度関係.単結晶のESR測定結果および上記の一般的角度関係によると、現実のヘム錯体はC_2対称に近似できる.この際、各主軸はヘム座標z軸の回りに回転配向し、角度関係は「低対称場主軸がz軸の回りに角度φ回転すると,gおよびhfテンソル主軸は角度φ_gおよびφ_A回転する」として表現できる.ただし、φ_g=ーφ、tan2φ_A=ー(EーF)tan2φ/(E+F)である(E,Fは低対称場バラメ-タの関数).これら主軸系の角度配向は主として軸配位子の回転配向に起因する.実験的には、凍結溶液試料においても、g主値とg主軸方向のhf分裂を測定することにより、各配向角を決定できる. 3.メトキソおよびシアノ軸配位子を有する低スピンヘム錯体への応用.低スピン錯体Fe(TPP)(OMe)_2^ー1^^〜、Fe(TPP)(OMe)(CN)^ー2^^〜およびFe(TPP)(CN)_2^ー3^^〜(TPP=テトラフェニルポルフィン)の凍結溶液ESRで観測される ^<57>F_e(l=1/2)核によるhf分裂から低対称場の配向角度を以下のように決定した.1^^〜φ_g=ーφ=39.3°,φ_A=34.9°:2^^〜φ_g=ーφ29.5°,φ^^〜_A=10.8°:3^^〜HALS型スぺクトルを与えるため角度は決定不能. 4.反応性との関係.軸配位子の配向角度と反応性との関係は現在検討中である.
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