研究概要 |
1.低スピンFe(III)ヘム錯体のg値解析の経過と問題点. 現在、最も広く用いられているg値解析法は、古くGriffith(1957)およびKotani(1961)による理論的研究に基づくものであるが、その後のWeissbluth(1967),Bohan(1977),Taylor(1977)らによる解説的論文により、生化学・薬学領域の人たちが益々盛んに用いるようになった.しかし、この方法は、錯体の対称性、低対称場主軸、gテンソル主軸、低対称場の固有関数などが極めて理想化された特定の錯体に適用し得るものである.現実の錯体に応用できるg値解析法は、各主軸のヘム座標系に対する配向角度を考慮したものである. 2.C_2対称性錯体のg値解析法. C_2対称性においては、各主軸はヘム座標z軸の回りに回転配向するので、各主軸の相対配向を考慮したデータ解析が比較的容易にできる.この方法によれば、凍結溶液試料に対しても、gデンソル主軸方向におけるhf分裂値が測定されると、各主軸の相対配向が定まり、不対電子の分布方向(従来のg値解析法による結果と大きく異なる)が決められる. 3.MbN_3のESRの再解釈. アジドミオグロビン(MbN_3)およびヘモグロビン(HbN_3)の単結晶ESRの測定結果を再解釈し、Griffith,Taylorによる解釈(不対電子の存在するd軌道が軸配位子イミダゾール面に直角方向に配向している)を訂正し、イミダゾールよりもN_3^-の方が鉄のd軌道に対するπ結合異方性が大きく、N_3^-の方がg主軸および不対電子分布方向を支配的に決めていることを明らかにした. 4.軸配位子の回転配向角度.不対電子分布方向をはじめ各主軸の角度配向は軸配位子のヘムz軸の周りの回転配向に起因するので、ヘム錯体の電子状態と反応性に密接に関わる.具体例を実験的に検索中である.
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