研究概要 |
異なる二種類のアミン配位子を用いて,申請者の考案したジクロロ架橋複核錯体を原料とする方法により,いわゆる混合配位子型白金錯体[Pt(R-NH_2)(R'-NH_2)(NO_3)_2]を合成した.この錯体の195Pt-NMRの化学シフトの大きさは,[Pt(R-NH_2)_2(NO_3)_2]および[Pt(R'-NH_2)_2(NO_3)_2]の中間に位置していた.この事実と前年度に得た結果,すなわち,ヒドロキソ架橋複核錯体生成の反応速度定数の大きさ,195Pt-NMRの化学シフトの大きさおよびアミン配位子のpKa値の間にそれぞれ正の相関があること,とを併せて考えると,アミン配位子の塩基性が白金錯体の反応性に大きな影響を及ぼしていることが結論づけられた. 本研究で用いた白金錯体の制がん活性を,培養細胞(ヒト胃がん細胞,ヒト肝臓がん細胞など)を用いて検定した.単核ジクロロ錯体,単核ジアコ錯体,およびヒドロキソ架橋複核錯体の活性を比較したところ,一般に,単核ジクロロ錯体がもっとも活性が高かった.しかしながら,ヒドロキソ架橋複核錯体の活性が対応する単核ジクロロ錯体や単核ジアコ錯体よりも高い活性を示す錯体もあった.ヒドロキソ架橋複核錯体は培地中の塩化物イオンの求核攻撃により開裂され,単核ジクロロ錯体に変化するが,この開裂反応は極めて遅く,36時間後でも反応は完結しなかった.これらのことから,ヒドロキソ架橋複核錯体自身ががん細胞膜を通過して,制がん活性を発現している可能性が残されていると推定された. 以上の結果,ヒドロキソ架橋複核錯体生成反応の制御因子としてのアミン配位子の役割および複核錯体自身の制がん活性発現の機構の一端を明らかにすることができた.
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