制がん活性を有する白金錯体がジヒドロキソ架橋複核錯体(以下複核錯体)を生成する反応および複核錯体の化学反応性に関し、主として、以下の2項目について詳細に検討した。 1.複核錯体生成反応の速度論および平衡論的解析。 2.複核錯体とグアノシン-5'-一リン酸(5'-GMP)との反応の解析。 1.について:複核錯体生成反応を解析するために開発したpH緩和法をシスプラチンのジアクア錯体およびエチレンジアミン誘導体を含む白金ジアクア錯体に応用し、複核錯体生成反応のみかけの2次反応速度定数、活性化エネルギーを計算した。また、複核錯体生成反応の平衡定数を得た。反応速度に影響を及ぼす因子を考察するために、反応速度定数、単核アクア錯体の195白金核磁気共鳴化学シフトおよび酸解離定数、並びにアミン配位子の酸解離定数との間のそれぞれの相関を解析した、 2.について:本研究に用いた複核錯体は、培養がん細胞に対して高い細胞毒性をもっているが、これらの複核錯体と、がん細胞内標的組織である核酸との相互作用を検討する目的で、一般に白金錯体の核酸認識部位がグアニン塩基であるといわれていることを考慮して、5'-GMPを取り上げ、複核錯体との反応を、高速液体クロマトグラフ法(装置は本科学研究補助金により購入した)、円二色スペクトル法およびプロトン核磁気共鳴法により詳細に解析し、複核錯体はその反応過程において、5'-GMPに対する結合様式が単核錯体のそれとは大きく異なる生成物を与えることを証明した。 以上の知見は、制がん剤シスプラチンの作用機序および複核錯体錯体のもつ特異な生理活性を理解するための基礎的情報を提供するものと考えられる。
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