我々は、核酸の構成要素の一つであるグアノシンが、温度条件、湿度条件に依存し、可逆的結晶構造転移を起こす現象を見いだした。本研究は、X線回折法により、その構造変化の詳細を明かにし、核酸の機能発現の重要な要因となっている構造柔軟性、多様性の発現に関し、知見を得ることを目的としている。核酸の水和状態の湿度依存性については、ヒステリシスが存在することが報告されているが、グアノシンの結晶構造転移においてもヒステリシスが存在することが明かになった。グアノシンの結晶構造転移は、相対湿度0ー25%領域で引き起こされる。相対湿度25%以上の領域では二水和物構造が安定であるが、相対湿度の低下にともないグアノシン結晶は除々に結晶水を失い、相対湿度0%では無水物となる。この結晶水の離脱過程において、二つの中間状態(1、2)を経ることが見いだされた。中間状態(1)では、グアニル基部分に関しては、二水和物結晶中の構造がほぼ保持されているが、リボ-ス部分のコンホメ-ション変化が生じ、結晶のa軸長が約1%短くなっている。さらに低湿度の条件下で実現される中間状態(2)および無水物では、グアノシン分子の形成するカラム間に存在していた結晶水が離脱し、これと対応して結晶のa軸長が約6%短くなる。また、グアニル基間の水素結合構造にも変化がもたらされる。無水物では、結晶性の低下がみられ、構造の乱れが大きいが、無水物の周りの相対湿度を再び上昇させて行くと、結晶性が回復し、(1)とは異なる中間状態(3)を経て、二水和物の構造に戻ることがわかった。中間状態(3)においては、グアニル基のスタッキング構造にずれの変位が生じており核酸の構造転移との関連において注目される。中間状態(3)について、粉末X線回折パタ-ンのリ-トベルト法解析を行うことを目的とし、初期構造モデルを得るための分子動力学計算を進めている。
|