著者らはこれまでの研究で四塩化炭素による肝障害マウスの血中及び肝臓中に障害肝の再生に先行してマウス肝細胞増殖因子(mHGF)が著しく増加することを見出し、同障害肝の上清画分から本増殖因子を約28万倍に精製してその諸性質を明らかにしてきた。mHGFは分子量約6.2万と3.1万の2本のペプチド鎖がS-S結合したヘテロダイマーで、ヒト肝細胞増殖因子(hHGF)と極めて類似した性質を示す。今回の研究では、まず、より大量のmHGFを得るための検討を行い、高濃度(1.7M)の食塩を含んだ緩衝液で障害肝をホモジナイズしてmHGFを抽出すると、食塩を添加しない緩衝液を使用する従来の方法よりも5〜10倍多量のmHGFが得られることを見出した。このようにして抽出したmHGFを著者らが既に確立した4段階よりなる方法によって収率よく精製することができた。次に初代培養ラット肝細胞にmHGFやhHGFを添加するとD-ガラクトサミンによる肝細胞障害が抑制されるか否かについて検討した。その結果、肝細胞DNA合成を十分に誘導する濃度(10〜30ng/ml)のmHGF、hHGFによっても肝細胞障害は軽減されるまでには至らなかった。次にhHGFの各種培養細胞に対する増殖刺激作用の有無に関して調べた。まず分化型ヒト肝がん細胞の増殖に対するhHGFの作用は、増殖促進(HuH-6Clone5)、増殖抑制(Hep G2)及び無影響(HLE、HuH-7、PLC/PRF/5)に分かれた。今回hHGFによって影響を受けなかった細胞株はいずれも成人型肝がん細胞株で、一方、何らかの効果が認められたものは両株とも肝芽腫細胞株であった。このことが普遍的であるかについてはさらに細胞株を増やして検討する必要がある。さらに、従来、線維芽細胞はhHGFには応答しないと言われていたが、ヒト皮膚線維芽細胞の増殖はhHGFによって促進されることを見出した。我々は本細胞が少量のhHGFを産生・分泌することも見出しているが、本細胞の増殖がhHGFによってオートクリン的に促進されるか否かについてはさらに詳細な検討を要する。
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