研究概要 |
Wistar Kyoto系ラット(WKY)より分離した自然発症高血圧ラット(SHR)は生後40日前後で高血圧を発症する。様々な方向からその原因が検討されているが,まだ決定的な結論は得られていない。筆者は循環血中で生成しうる昇圧因子リゾホスファチジン酸(LPA)に的を絞り,血漿のインキュベ-トに伴うLPA分子種の変動をWKYとSHRで比較した。 SHR血漿中のLPA最大蓄積はWKYより早い時間で認められ,LPA各分子種の生成速度もSHRの方がWKYより高かった。この結果からSHR血漿中ではリゾホスホリパ-ゼD活性が高まっていることが示唆された。また,血漿中に多量に含まれているリゾホスファチジルコリン(LPC)がリゾホスホリパ-ゼDにより分解されLPAが生成すること,並びにリノ-ル酸などの多価不飽和脂肪酸を含有するLPCとレシチンーコレステロ-ルアシル転移酵素により生成する飽和型LPCがこの酵素の良い基質となることをSHRを用いて確認した。 次に,WKYとSHR保温血漿中のLPA生成に対する加齢の影響を検討した。WKY血漿中のLPA生成量は加齢により変動しなかったが,15週齢SHR血漿中のLPA最大蓄積量と各分子種の生成速度は共に8週齢SHRより有意に低く,加齢に伴いSHRのリゾホスホリパ-ゼD活性が減少することが明らかとなった。 筆者はLPAや他の昇圧因子のSHRとWistarラットの血圧に対する作用を比較した。LPAおよび表皮細胞由来成長因子によるSHRでの昇圧作用はWistarラットに比べて有意に高かった。 SHR血漿中のリゾホスホリパ-ゼD活性の増加とSHRのLPAに対する感受性の亢進とを考え合わせると,LPAが本態性高血圧発症の初期過程に何らかの役割を果しているものと推定される。
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