研究概要 |
Wistar Kyoto系ラット(WKY)より分離した高血圧自然発症ラット(SHR)は生後5〜6週で高血圧を発症する。様々な方向からその原因が検討されているが,まだ決定的な結論は得られていない。筆者は循環血中で生成する昇圧因子リゾホスファチジン酸(LPA)に的を絞り,以下に示すような結果を得た。 ラット血漿では保温に伴ないレシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼにより飽和リゾホスファチジルコリンが生成し,その量はインキュベート初期には増加する。この飽和種と不飽和種のリゾホスファチジルコリンは共にリゾホスホリパーゼDにより分解されLPAが蓄積してくる。SHR血漿中のLPA蓄積はWKYより早い時間で認められた。血漿リゾホスファチジルコリン量はWKYとSHR間で差異がないので,SHRにおいてリゾホスホリパーゼ活性が高まっていることが示唆された。 LPは無麻酔下およびぺントバルビタール麻酔下において,SHRとWKYの血圧を用量依存的に上昇した。無麻酔下では0.3μg/kgから10μg/kgの用量域でSHRの方がWKYに比し有意に大きい血圧上昇を示した。ペントバルビタール麻酔下では,全用量域において両種の間に有意差は認められなかった。SHRとWKYの心拍数は,麻酔下,無麻酔下のどちらの場合も一過的に減少した。SHRとWKYの胸部大動脈片を摘出後,Krebs-Henseleit溶液やLocke溶液に浸しLPAを加えたが,有意な張力の変化は観察されなかった。現時点ではLPAの昇圧作用の機序は不明であるが,SHRの血管平滑筋細胞のLPAに対する感受性がWKYに比して高まっているものと思われる。SHR血漿中でLPA生成速度が高いことを考え合せると,この生理活性リン脂質がSHRの病態の発現や増悪に関係しているものと思われる。
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