トポイソメラーゼIの阻害剤であるカンプトテシン、トポイソメラーゼIIの阻害剤であるVP16、および生薬センソの一成分であるブファリンがヒトの種々の白血病細胞に対して強力な分化誘導能があることを見いだしたので、それらの分化誘導機構を調べた。白血病細胞の細胞周期に対しては、カンプトテシン、VP16およびブファリンはG2/M期で細胞周期を止めた。三種の誘導剤とも癌遺伝子c-mycの発現を減少させ、c-fosの発現を増加させた。トポイソメラーゼIIの活性に対しては、ブファリンはin vitroでは影響を与えないが、細胞内のトポイソメラーゼII活性をシグナル伝達系を介して阻害した。従って、ブファリンは新しいタイプのトポイソメラーゼII阻害剤であることが明らかとなった。白血病細胞に対する分化誘導の相乗効果は、カンプトテシンまたはVP16とブファリンの併用で見られた。また急性骨髄球性白血病患者の画期的な治療薬として用いられているレチノイン酸とも、カンプトテシンまたはVP16との併用で白血病HL60細胞に対して相乗効果が見られた。また、80nM以上のカンプトテシンまたは16μM以上のVP16で前処理してからレチノイン酸で処理すると分化誘導の相乗効果が現れた。この結果は、カンプトテシンおよびVP16の前処理またはこれらの薬物との併用がレチノイン酸の投与量を減少させ副作用を軽減するのに有効であることを示唆する。また、トポイソメラーゼ阻害剤を始め、種々の分化誘導剤は細胞にアポトーシスを誘導することが知られているので、ブファリンに白血病HL60細胞に対するアポトーシス誘導能があるかどうかを調べた。その結果、ブファリンは低濃度では分化を、より高濃度ではアポトーシスを誘導した。また、種々の抗癌剤とトポイソメラーゼ阻害剤との併用で白血病HL60細胞に対するアポトーシスの誘導にも相乗作用を起こすことが出来るかを検討した結果、カンプトテシンとVP16、レチノイン酸とVP16、ブファリンとレチノイン酸との併用で相乗的にアポトーシスが誘導された。
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