研究概要 |
トロンボモジュリン(TM)は血管内皮細胞膜上に発現する糖タンパク質で、トロンビンの産生を制御する血液凝固反応の監視役である。申請者はこれまで、レチノイン酸(RA)がTMの遺伝子転写を促進しそのタンパク合成を増加させることを培養内皮細胞を用いて明らかにしてきた。本年度は、RAによるTMmRNAの増加がその遺伝子プロモーター領域の塩基配列とどのような関係にあるのかをCATアッセイにより解析した。一方、近年になってTMは内皮細胞のみならず単球やマクロファージおよび好中球にも存在することが報告された。そこで、前骨髄性白血病HL-60細胞を種々の分化誘導剤によって単球、マクロファージおよび好中球系細胞に分化させたときのTM発現について調べ、細胞の分化とTM発現との関連性の面からもRAによるTMの発現調節について検討した。 平成5年度の研究実績は以下にまとめられる。 1,TMの遺伝子5′上流720塩基までに典型的なRAレスポンシブエレメントは存在しない。 2.CATアッセイの結果、TMの翻訳開始部位から約300塩基上流部分に基本転写活性に必須な塩基が存在し、この部分にRAによる転写の促進にかかわる塩基配列の存在する可能性が考えられる。 3.しかし、この塩基配列に核内タンパクであるRAレセプターbetaタイプは関与しない。 4.TMの発現はHL-60細胞の分化の様相と異なり、単球やマクロファージ系細胞へ分化した結果生ずる現象である。 5.HL-60細胞のTM発現はRAの処理濃度とは相関せず、RA濃度に依存して増加する内皮細胞のTM発現と異なる。 以上により、RAによるTMの転写調節はその5′上流遺伝子の塩基配列と密接に関連すると考えられる。しかし、細胞の種類により存在するタンパク質に違いがあり、TMの発現調節は個々の細胞間で異なることを明かにした。
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