トロンボモジュリン(TM)は血管内皮細胞膜上に発現し、トロンビン産生を制御する血液凝固反応の監視役タンパク質である。TMの発現を高める化合物を発見し、その発現調節機構を理解することは血栓症関連の疾患への臨床応用を考える上で重要である。申請者は(1)レチノイン酸(RA)が培養内皮細胞のTM発現を高めることを見い出し、(2)その転写調節機構に関して詳細に解析し、(3)炎症性サイトカインによるTMの発現低下に対するRAの影響を調べ、(4)またRAによる前骨髄性白血病細胞の分化とTM発現との関係を調べ、RAによるTMの発現調節について検討した。 平成3年度から5年度に行なった本研究の成果は以下にまとめられる。 1.RAによる血管内皮細胞のTM抗原量の増加は、プロテインC活性化の補酵素作用を保持した機能的な本タンパク質が細胞表面に増加したものであり、RAは健常人の血中レベルで内皮細胞の抗血栓性機能に寄与する。 2.RAによるTMの発現増加はTMmRNA量の増加と対応し、それは安定性の増加ではなく転写の促進に基づく。 3.RAによるTMmRNAの増加はcyclic AMPによるmRNAの増加とは異なる機構による。 4.TNF-αの処理によって低下する血管内皮細胞上のTM発現は、RAの処理によって遺伝子転写レベルで抑制され、RAは抗血栓薬として効果の期待できる作用を有する。 5.TMの遺伝子5'上流720塩基までに典型的なRAレセプター応答配列は存在しないが、CAT発現実験の結果からTMの翻訳開始部位の約300塩基上流部分にRAによる転写の促進にかかわる塩基配列の存在する可能性がある。 6.TMの発現はHL-60細胞の分化の様相と異なり、単球やマクロファージ系細胞へ分化した結果生ずる現象である。 7.HL-60から好中球へ分化する際のTM発現はRA濃度とは相関せず、RA処理後の内皮細胞のTM発現とは異なる。
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