研究概要 |
一般にがん細胞は,正常細胞が複数の遺伝的変異を積み重ねて段階的な変化を起こした結果,異常増殖するようになった細胞と考えられている。がん化のメカニズムを明かにするためには、がん化とがん遺伝子などの関係を調べると同時に,がん化に伴い増殖に必要な細胞増殖シグナルがどのように変化していくか解析する必要がある。本研究では,この細胞増殖のシグナルの変化を調べるために次のことを行った。(1)試験管内でゴ-ルデンハムスタ-胎児細胞を継代することにより,造腫瘍性を獲得した細胞が得られることを見いだし,がん化の多段階性を細胞レベルで追える実験系を確立した。継代数38のゴ-ルデンハムスタ-細胞(p38)は軟寒天コロニ-中でのコロニ-形成能,造腫瘍性を示さないが,継代数69の細胞(p69)ではこれらの性質を獲得していた。(2)p38,p69細胞の増殖に対する上皮細胞増殖因子(EGF)および脂肪酸の影響を調べた。両細胞ともEGFにより増殖が促進され, ^<125>IーEGF結合量は変わらないことから,がん化の原因としてEGF受容体数,親和性の変化が起きている可能性は否定された。一方脂肪酸に関しては,アラキドン酸,エイコサペンタエン酸,リノ-ル酸,オレイン酸はp38の増殖に影響を与えず,p69の増殖を特異的に促進した。しかし,パルミチン酸はいずれの細胞の増殖も促進しなかった。アラキド酸などの脂肪のp69に対する作用は,プロスタグランジン合成阻害剤のインドメタシンにより抑えられず,アラキドン酸はプロスタブランジン合成を介さず細胞増殖を促進していると考えられる。Cキナ-ゼはアラキドン酸などの脂肪酸により活性化されるが,パルミチン酸によっては影響を受けないことが知られており,アラキドン酸などの脂肪酸はCキナ-ゼに作用してp69の増殖を促進している可能性がある。
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