研究概要 |
現在,振戦の発生機序には諸説があり,そのため振戦デ-タが提供する生理学的および診断学的情報の内容は確定していない。従来は,自発的に発生する振戦を分析しているため,それから得られる情報は限定されていた。本研究は,周波数を変えながら手首に機械的励振を与え,手の応答スペクトル解析から,力学および反射パラメ-タを推定し,生理的(正常)振戦の解析に利用するものである。モデルは,筆者らが先に提案した2反射ル-プモデルを改良して用いる。 研究経過および主な成果は次の通りである。手関節運動を対象とし,手首をアダプタを介して加振器の振動子に固定して,プログラマブルRC発振器で発生した正弦波で駆動する。手首の加速度,手関節の角度,および橈側手根伸筋の筋電図を,それぞれ,加速度センサ,ゴニオメ-タ,および表面電極で検出する。従来は,手の応答も加速度センサで測定しているため,手首と手関節の運動の複合したものが検出され,解析に不利であった。今回新たに,ゴニオメ-タによる手関節角度の測定を導入したため,適用するモデルは著しく簡明になった。ゴニオメ-タの出力は信号対雑音比が小さいという欠点はあるが,単一周波数駆動であるため,デ-タ処理技術により解決できる。 信号はデ-タレコ-ダに記録した後,FFT機能付アナライジングレコ-ダによりスペクトル分析を行い,最後にコンピュ-タによりパラメ-タの当てはめ推定を行う。この段階についての予備実験は済んでいる。 パラメ-タ推定の精度を上げるためには,その個数を減す必要がある。そこで,タップを与えた後の減衰振戦から,抵抗係数とばね定数を推定する実験を行った。特に抵抗係数は重力のモ-メントに比例するという結果が得られた。今後は,関連するパラメ-タの高精度推定と,生理学的に妥当なモデルの確立に力を注ぐ予定である。
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