本態性高血圧の優れた動物モデルの高血圧自然発生ラット(SHR)では、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)含有血管拡張性神経の活動が加齢によって減弱することから、高血圧成因には血管拡張性神経の活動減弱が関与していると考えられる。CGRP神経活動を改善する薬物は本態性高血圧の根本的な治療薬になり得る可能性があると考え、平成3年度の研究において、現在高血圧の治療に用いられている抗高血圧薬がSHRにおいて減弱した血管拡張性神経伝達を改善するものがあるかどうか検討した。高血圧進展時期の8週齢SHRに抗高血圧薬としてβ‐受容体遮断薬(Pindolol)、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(Captopril)、Ca拮抗薬(Nicardipine)および血管拡張薬(Hydralazine)を飲料水あるいは固形飼料として7週間長期投与した結果、Captopril投与群でのみCGRP神経性反応が大きく促進することを明らかにした。 平成4年度では、高血圧が固定した15週齢SHRを用い、Pindolol、Captopril、Hydralazineを飲料水として与え7週間飼育した。22週齢時に麻酔下に頚動脈圧を多用途プリアンプ装置(RMP-6008)および圧トランスデュサー(P23XL)にて測定した結果、いずれの抗高血圧薬慢性投与したSHRの血圧は同週齢無処置SHRに比較して有意に低値を示した。各抗高血圧薬投与SHR群および同週齢の無処置SHR群において腸間膜潅流標本における経壁電気刺激(経壁電気刺激装置SEN-3301)による神経性血管拡張反応を検討した結果、Pindolol投与SHR群の神経性拡張反応の大きさは無処置SHR群と同程度であった。一方Captopril投与SHR群の拡張反応は無処理SHR群の反応よりも有意に大きかった。 現在、Hydralazineの実験が終了し、その結果を集計中であるが、CGRP神経性血管拡張反応は対照SHRと差がない結果がでている。以上のように抗高血圧薬の慢性投与は高血圧が固定したSHRの血圧を低下させたが、CaptoprilのみがCGRP含有血管拡張性神経機能を改善させるという新たな知見がえられた。この結果はCaptoprilの降圧作用機序を解明するの貴重なdataと思われる。
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