[ ^3H]プラゾシン(Pra)を標識リガンドとするラジオレセプターアッセイ法によりヒト前立腺肥大症の前立腺におけるα_1-レセプター(R)測定の基礎的検討を行い、α_1-Rの特性を調べ、次いでα_1-拮抗薬のR結合動態について検討した。[実験成績](1)前立腺肥大症患者の外科的手術時に摘出した前立腺より調製した粗細胞膜において[ ^3H]Praの特異的結合が認められ、この結合は飽和性、高親和性、可逆性および薬理学的(立体)特異性を示した。(2)ヒト前立腺におけるα_1-Rには部位差があり、内側領域で最も高く、以下、外側領域、前立腺尿道部の順であった。(3)肥大前立腺におけるα_1-Rの密度は正常前立腺の約72%、有意な高値が認められた。(4)前立腺への[ ^3H]Pra結合はプラゾシン、ブナゾシン、テラゾシン、YM617、ナフトピジルやウラピジルにより抑制され、その抑制効力は、これら薬物の薬理活性とよく相関した。(5)YM617、プラゾシン、ナフトピジル及びウラピジルはいずれもヒト大動脈への[ ^3H]Pra結合を濃度依存的に抑制した。ヒト前立腺及び大動脈のα_1-Rに対し、プラゾシンとウラピジルはほぼ同等の親和性で結合したが、YM617とナフトピジルは前立腺α_1-Rにそれぞれ14倍と2倍、高い親和性で結合した。(6)両組織をクロルエチルクロニジンで前処理することにより[ ^3H]プラゾシンの最大結合部位数が対照に比べ約30%減少した。以上の結果より、ヒト前立腺におけるα_1-Rは、(1)分布密度に部位差がある、(2)肥大症患者において正常者より増量している、(3)α_1-拮抗薬により競合的かつ可逆的に遮断されることが明らかとなった。また、YM617とナフトピジルは前立腺α_1-Rに対し選択性を有するα_1-拮抗薬であり、前立腺肥大症の排尿障害に対し、きわめて有効な(起立性低血圧などの副作用の少ない)治療薬になるものと考えられる。また、ヒト前立腺を用いたα_1-R測定法は新規α_1-拮抗薬開発のための簡便かつ高感度なスクリーニング法となることが示唆された。
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