研究概要 |
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌感染症は日和見感染症の1つと考えられる。特にS.epidermidisに着目して病原因子としてスクリーニングを試みたが、特徴的なものは認められなかった。ファージ型別成績からは病巣由来株に特徴的な溶菌パターンがみられ、また健常者由来のS.epidermidisの多くは血清中で死滅してゆくのに対し、病巣由来株の中には増殖するものがみられた。血清中における増殖は菌にとってストレスと考えられるので、血清中での増殖能は重要な病原因子と考えられる。ストレスに関してはE.coliで解析が進んでいることから、今年度はE.coliとS.epidermidisを使い血清耐性機構を明らかにし、本菌感染症の解析的研究を進めた。即ち、敗血症患者血液から複数回検出されたS.epidermidisを集めて菌体を破砕し、DEAE Sephacelにて燐脂質依存性燐酸転移酵素をNaCl濃度勾配で分画して取り出した。分画後直ちに燐酸転移酵素活性を測定した。基質に上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)合成ペプチド(PLSRTL SVAAK)を用いると、セリン、スレオニンに対するATPからの燐酸転移酵素活性が認められ、この酵素活性は燐脂質とCa^<2+>に依存していた。またE.coli DHI/pKY206の熱ショック蛋白を燐酸化する活性もみられた。溶出されたE.coli由来転移酵素活性分画に対して抗Cキナーゼ抗体で免疫沈降を行うと、分子量66.000〜97,000に4本のバンドがみられた。この66,000のバンドについてアミノ酸配列をN末端から行うと、猩猩蠅のセブンレスキナーゼと相同性がみられた。以上のことからS.epide rmidisに燐酸転移によるセカンドメツセンジャーが存在することが推測され、血清中での増殖能を抑制している可能性が考えられた。
|