研究概要 |
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は人の皮膚や粘膜に常在菌として多数存在している。日和見病原体として検出されるが、その病原因子が確定されないため真の原因菌か常在菌の迷入なのかを鑑別できない。菌種別にみると、健常者由来のS.epidermidisが健常人血清中で増殖のみられない株が多いことに対し、DNaseを有する一群の株は健常人血清中で増殖がみられその病原性が推測された。血液、化膿巣からS.epidermidisの検出例が多く、S.epidermidisに注目して研究を行った。 (1)ファージ型別成積から、健常者由来株にはI型、II型、III型のすべての型がみられたが、病巣由来株ではII型を示す株と型別不能株が多くみられた。このファージセットでS.aureusもII型を示すことから、S.epider-midisに病原性を有する一群が存在することが示唆された。(2)病巣由来株は血液疾患の患者血清では健常人血清に比べ高い増殖能を示し、血清中のアポトランスフェリン、HDLコレステロールなどの増殖抑制因子によるストレスに対して発育してくることが病原性と考えられた。(3)この血清耐性を担う因子を解析するために、細菌細胞内の燐酸転移酸素によるシグナル伝達系が存在することを明らかにし、血清中の増殖抑制因子に抵抗して発育のみられる機構について研究を行った。その結果、敗血症患者血液から複数回検出されたS.epidermidisからセリン、スレオニンの燐酸転移酵素が見出され、燐脂質、Ca^<2+>に依存する活性がみられた。一方、E.coliから得られた燐酸転移酵素は抗Cキナーゼポリクローナル抗体で免疫沈降すると66,000から97,000に4本のバンドがみられ、その1つは猩猩蝿のセブンレスキナーゼと相同性が認められ、熱ショック蛋白GroEを燐酸化する活性がみられた。以上のことからS.epidermidisに燐酸転移によるセカンドメッセンジャーが存在し、血清中の増殖抑制因子に抵抗して発育してくるものと推測された。
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