先天性のインスリン受容体異常により著しいインスリン抵抗性をきたす一連の疾患が知られている。インスリン非依存型糖尿病の成因のひとつであるインスリン抵抗性を解明するために本疾患群についてその遺伝子異常と糖尿病の表現型を明らかにすることは大変有用である。我々はインスリン受容体異常症の4家系について家系調査を行い遺伝子異常と糖尿病発症の関係を明らかにした。タイプA千葉においては片方の対立遺伝子にエクソン17以降の欠失が、タイプA山梨においては片方の対立遺伝子にエクソン14の欠失が見られた。タイプA北海道-2では片方の対立遺伝子にエクソン17の1008番目のアミノ酸GlyがValに変わる点変異を認めた。 leprechaum/旭においては片方の対立遺伝子にエクソン15の3'末端の2塩基の欠失をもう片方にmRNAの低下する異常を認めた。タイプA千葉北海道-2はいずれもキナーゼ活性を低下させるヘテロの変異であり、家系調査の結果は異常遺伝子を持つ者はいずれも糖尿病の発現が見られた。この事実は発現した変異インスリン受容体が正常受容体を抑制する結果、ヘテロの異常でもインスリン抵抗性糖尿病をきたしたと推定される。タイプA山梨は膜結合部位を持たないヘテロ変異のため変異インスリン受容体は細胞膜上にはA発現せず家系調査の結果インスリン結合の低下のみで糖尿病は発症しない。leprechaum/旭は両方の対立遺伝子にインスリン受容体を減少させる変異が存在するため著明にインスリン受容体が減少し、leprechaunismを発症したと考えられた。インスリン受容体異常症の中でチロシンキナーゼ領域の異常はヘテロでも糖尿病を発症するが、膜通過領域を持たない異常は単独では糖尿病を発症しない。また両方の対立遺伝子に異常がある場合はleprechaunismのような重症な表現型となる。
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