脳における甲状腺ホルモン代謝研究において重要なことは単純化された系を用いることである。そこで神経内分泌臓器(下垂体後葉、松果体)、培養ニューロンにて実験を行った。 (1)下垂体後葉:Tyoe-III Thyroxine 5-deiodinase(5D-III)は甲状腺ホルモン不活性化酵素で脳において豊富に発現されている。下垂体後葉にも5D-IIIを認め、前葉、中葉にはほとんど活性を認めなかった。すなわち下垂後葉の甲状腺ホルモン代謝酵素は、特異的活性化酵素Type-II5´-deiodinase(5´D-II)及び5D-IIIが存在し、脳におけると同様のIsozymeで、 Mini-brainとして有用な系と考えられた。 (2)松果体:松果体にも5D-IIIが存在し、以前の我々の5´D-IIの存在、β-adrenergicに調節された著明な日内リズムの存在と考え合わせ、松果体における甲状腺ホルモンの重要性が示唆された。 (3)培養ニユーロン:1985年Leonardは5´D-IIは主にニューロンの酵素との論文を発表したが、その後アストロサイトでもdbcAMPにて5´D-IIが誘導されることが報告されて以降、ほとんどの論文が培養アストロサイトを用いて行われてきた。しかし今回培養ニューロンで実験したところ、ニューロンでは非刺激下でも5´D-II、5D-IIIが発現されていた。アストロサイトでは非刺激下では5D-III、5´D-I(サイロキシンに低親和性の別のIsozyme)のみの発現で、dbcAMP刺激下でのみ5´D-IIを発現する。すなわち脳における甲状腺ホルモン代謝においてニューロンとグリアは別のコンパートメントに属すると考えられる。今後培養ニューロンの甲状腺ホルモン代謝の調節機構を更に研究してゆく予定である。 (4)その他:従来全く報告がなかった舌下腺で代謝酵素5´D-Iを発見した。 今後更にこれら結果の意義付けを研究してゆきたい。
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