研究概要 |
ヒト甲状腺癌に特異的に発現していることが発見された癌遺伝子であるPTC遺伝子をはじめとする各種癌遺伝子の甲状腺癌の発症や増殖に果たす役割およびこれらの癌遺伝子の発現調節機構を解明するための研究を行なっている。手術で得られた甲状腺腫瘍組織におけるPTC遺伝子の発現は22例中全例で陰性であったため、唯一PTC遺伝子の発現が認められた甲状腺乳頭癌由来細胞株(TPCー1)を用いて実験系を構築し、研究を進めている。具体的には、甲状腺癌細胞の増殖機構の一部にPTC遺伝子が関与しているか否かを調べるために、PTC遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成し、TPCー1細胞培養液中に添加し、細胞の増殖能を ^3Hサイミジンの取り込みを指標に検討した。その結果、センス・アンチセンスオリゴヌクレオチドの両者ともにTPCー1細胞の ^3Hサイミジンの取り込みを抑制せず、現在までのデ-タではTPCー1細胞においてはその増殖にPTC遺伝子が関与している可能性は非常に低いことが示唆された。現在は、同様の実験系を用いて甲状腺特異遺伝子(Tg,TPO,TSHーR)の発現に及ぼすPTC遺伝子の影響について検討中である。さらに、別の甲状腺乳頭癌由来細胞株(NPA)における検討では、PTC遺伝子の発現はみられなかったが、cーmyc癌遺伝子は過剰発現していることが見いだされてた。このcーmycの過剰発現は、インタ-ロイキン1(ILー1)により抑制され、これと平行して細胞の増殖もILー1によって抑制されることが確認された。また、NPA細胞にはTSH受容体が発現しているが、TSHに対する反応性は全く欠如しており、この機序として、TSH受容体の発現量の低下だけでなく、TSH受容体とG蛋白のカップリングに異常があり、細胞内情報伝達系が破確していることが明らかになった。今後さらに、癌細胞における細胞内情報伝達系の掛常についた詳細に検討を進めてゆく予定である。
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