研究概要 |
血小板におけるチロシンキナ-ゼの役割を評価するため,その阻害剤であるgenisteinの血小板機能特に細胞内カルシウム動員に対する作用を判定した。トロンビン刺激により血小板細胞内カルシウムは二相性に増加する。チロシンキナ-ゼ阻害剤であるgenisteinは,特にこの二相目の細胞内カルシウム増加を抑制した。そこで細胞内カルシウム動員に関わる種々の細胞内代謝経路にたいしてのgenisteinの作用をみた。genisteinは濃度依存性にトロンビンにより惹起されるIP_3の産生及びphosphatidylinositol‐4,5‐biphosphate(PI(4,5)P_2)の産生を抑制したが,反対にphosphatidylinositol‐4‐monophosphate(PI‐4‐P)の産生は増加していた。この結果より,genisteinは,PI‐4‐PをPI(4,5)P_2に変換するPIP‐5 kinaseの活性を抑制し,PIP(4,5)P_2の供給を低下させ,結果としてIP_3産生障害に基づく細胞内カルシウム動員低下を起こしていると考えられた。この仮説をさらに検討するため,cell homogenateにPIPを加えPIP_2の生成を測定する系を試みた。この系においても,genisteinはPIP(4,5)P_2の生成を濃度依存的に抑制することより,genisteinはPIP‐5‐Kinaseを抑制することが確認された。他の細胞において,チロシンリン酸化すなわちチロシンキナ-ゼ活性と関連するとされるPIP,PIP_2の3位にリン酸を持つイノシト-ルリン脂質の産生にはgenisteinは影響がなかった。 次に血小板蛋白のチロシンリン酸化に対するgenisteinの影響を評価した。血小板は静止時には約60KDaのチロシンリン酸化蛋白を持つのみであったが、トロンビン刺激により約125,100,75,62KDaの新たなチロシンリン酸が出現した。75KDaの蛋白は刺激後,約15‐60秒で出現し2‐3分で消失した。一方,125,100KDaの蛋白は約2分後より凝集に伴い出現した。genisteinはこのうち125,100KDaのチロシンリン酸化を軽度抑制したが他のチロシンリン酸化蛋白の出現を阻害しなかった。以上の結果より,genisteinがPIP‐5‐Kinaseを抑制すること,また一部のチロシンリン酸化蛋白の出現を抑制することが明らかになったが,チロシンリン酸化とPIP‐5‐Kinaseの関連がまだ不明確であり,これからの検討課題と思われる。
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