緑膿菌は、実験動物領域では、specific pathogen-free動物においてしばしば汚染が認められ、免疫抑制剤の投与等の実験処置が加わると本菌症が誘発される事から問題視されている。他方、人医領域でも、病院内に高率に汚染しており、免疫不全状態の入院患者等で本菌症が誘発される事から問題になっている。私は、病院と動物実験施設が同一敷地内に併設されている事、しかも動物実験を行う研究者が病院内の入院患者と実験動物の両者と頻繁に接触している事実から、緑膿菌の実験動物とヒト間の伝播について疫学調査を行った。 検索箇所は、(1)研究者及び動物飼育者の飼育室入室前後の手指及び口腔、(2)マウス、ラットの新鮮糞便及び飲水、(3)飼育室内の流し台等8カ所、(4)飼育室周辺の廊下床面等7カ所、を対象とした。検査方法は、NAC培地にて緑膿菌を分離した後、簡易同定キットにて同定、さらに免疫血清にて血清型別を行った。 その結果、研究者の口腔からは多種類の血清型の緑膿菌が分離された。しかし、その研究者が使用している動物あるいは環境からは、緑膿菌は全く分離されなかった。これらの成績から、研究者は動物に対して緑膿菌の汚染源になるとは考えられなかった。それに対して、研究者及び動物飼育者の手指からは、そのヒトが関係している動物の糞便及び一部の環境から分離された緑膿菌と同一の血清型の菌が、実験あるいは作業終了後にのみ分離された。以上の成績から、研究者あるいは動物飼育者は、緑膿菌汚染の被害者あるいは媒体者としての役割を果たしていると考えられた。
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