研究概要 |
半導体結晶における格子欠陥の存在はその電気的あるいは物理的性質に多大な影響を及ぼすため研究例も多い。格子欠陥の原子配列が解明されれば,半導体の結晶成長,素子製造の過程を原子的尺度で制御するための基礎データとなることが期待できる。 半導体では欠陥領域の原子も共有結合を保ち4配位となる傾向が強い。そのために,ある種の周期的配列が欠陥領域でも形成されている可能性が高いと考えられる。この点で微視領域からの電子回折法あるいは透過電子顕微鏡法は有力な研究手方で半導体の格子欠陥の原子配列を解明できることが期待できる。本研究の結果,従来,未解明の欠陥の構造が解明された。 1 {113}面欠陥 この面欠陥はイオン照射,電子線照射,熱処理でシリコン結晶内部に誘起される。電子回折,高分解能透過電子子顕微鏡の実験データから新しい原子配列モデルを提唱した。それによると結晶中に導入された多数の格子間原子が集合して,ある種の格子再構成を結晶内部で引き起こしていることが判明した。このモデルの安定性は既に理論計算により確認された。 2 GaAs結晶中のシリコンの面状集合体 シリコンはGaAs結晶の電気的性質を制御する便利な添加元素の一つであるが,この原子はCaAs結晶中の格子位置を置換原子として占有する場合とシリコン集合体を作る場合がある。詳しい電子顕微鏡観察の結果,集合体ではシリコン原子が2枚の{111}格子面を形成してGaAs結晶中に析出していると結論された。 他にシリコンにおける水素誘起に{111}面欠陥に対して新しい原子配列モデルを導くなどの成果を得た。回折結晶学的な研究手法が半導体における点欠陥の集合構造の解明には有効であることをあきらかにした。
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