研究概要 |
γーグルタミルーシステインとグリシンからグルタチオンへの合成反応を触媒するグルタチオン合成酵素の立体構造をX線結晶解析により2.7A分解能で決定した。その結果、電子密度図に現れてこないフレキシブルル-プの存在することが判った。このル-プの酵素機能に果たす役割を構造面から詳しく考察するために、まず野生型酵素の高分解能(2.0A)での精密構造解析を行った。本酵素結晶の格子定数が大きいため、X線回折強度デ-タの収集はシンクロトロン放射光を用いて行い、2軸方向から撮影した35枚のイメ-ジングプレ-トに記録された167000個の回折点から24,671個の独立な反射強度を得た。2.7A分解能で同型置換法により得た分子モデルを初期構造として精密化を行い、R値18.6%の構造を得た。この結果、Gly164ーGly167とIIe226ーArg241の2ケ所にグリシンを多く含むフレキシブルル-プが存在することが明かとなった。基質結合部位を決定する為に、酵素:ATP,酵素:γーGluーAbu,酵素:ATP:γーGluーAbuの3種の複合体のX線解析を行った。その結果、ATP結合部位は2本のフレキシブルル-プと相互作用しうる場所にあることが判った。通常、ヌクレオチド結合部位にはロスマンフォ-ルドと呼ばれるβαβの繰り返し構造がしばしば見られる。しかし、本酵素の場合、この種の構造は存在しない。遺伝子操作によりIIe226ーArg241をGlyーGlyーGlyで置換したル-プ欠損型タンパク質は、X線解析から野生型と同じ構造でありながら酵素活性を持たないことが判った。従って、除去されたIIe226ーArg241のフレキシブルル-プは、活性発現に重要な役割をしていることが明かになった。現在、更に2本のフレキシブルル-プに着目して遺伝子操作やX線結晶解析によりその構造と機能についての研究を続行中である。
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