γ-L-Glu-L-CysとGlyからATPのエネルギーを借りてグルタチオンを合成する大腸菌由来グルタオチン合成酵素のX線結晶構造解析において、Ile226-Gly241の領域は電子密度図に現われてこないフレキシブルループ構造をとることが判った。このループは、X線構造解析によって決定された基質結合部位の近傍に存在して酵素反応時に重要な役割をするものと予想された。そこで、酵素による限定分解、部位特異的変異による解析や化学修飾による解析などの方法でフレキシブルループの役割について検討してきた。その結果、このループは基質の結合においてだけでなく酵素反応において重要な役割をしていることが判ってきた。つまり、グルタチオン合成酵素中のフレキシブルループは、柔軟性を持つことによって反応中間体が生体中に大量にある水などの攻撃によって加水分解しないように保護しているようである。ATPやアシルフォスフェート中間体の高エネルギーリン酸結合は、親核物質の攻撃を受けやすい。特に生体内に多量にある水が本来の反応物より先にATPを攻撃して反応すれば、ATPは分解を起こしグルタチオン合成反応は進行しない。従って、基質が酵素に結合した時にフレキシブルループは基質と相互作用しながら構造変化を起こして基質結合部位を覆うことによって酵素の活性部位を水の攻撃から遮蔽するのであろう。このようなグルタチオン合成酵素におけるループの役割は、トリオースリン酸異性化酵素の場合とよく似ているように思われる。フレキシブルループの構造や酵素反応における役割などの酵素反応機構に関する詳しい知見は、シンクロトロン放射光を利用した時分割ラウエ法による動的結晶構造解析によって得られるであろう。
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